2014年4月30日水曜日

スピンスピン

僕は学生時代工学部で海洋環境の数値シミュレーションをやっていたのだが(というか今もやってる)、取り組みが始まったばかりで学科内には地球流体の専門家の先生がいなかったので、地球物理学のK先生の授業を他学部聴講で聞きに行ったことがある。講義の中でいろいろな実験のデモやビデオを見せていただいたが、そのなかにエクマンパンピングの実験があった。回転水槽の回転数を変化させたときに、水槽の水の回転が水槽の回転に追随していく様子を実際に測ってみよう、というものだ。

当時は内容がよく理解できなくて、結局この実験のレポートは出さなかったのだけど、期末になったらちゃんと単位がついていた。せっかく他学部から聞きに来てくれたので、ということでおまけしてくださったとのこと。その後、自分でちゃんとやり直してみようと思いつつ、気が付いたらウン十年もたってしまった。

…というわけで、再履修のつもりでエクマンパンピングの実験をやってみることにした。

とりあえず今回は水槽の性能などを確かめるための予備実験。準備するものは以下の通り。
  • 回転台:レコードプレーヤーを使用する。回転数を変えられるので便利。(電動ろくろは騒音が出るので使用を見送った)
  • 水槽:円筒形のガラス食器を使用する。ターンテーブルの真ん中のでっぱりの邪魔にならないよう土台を別途用意する。
  • ストップウォッチ:ラップ・スプリット計測が可能でメモリー付きのもの。
  • 浮子:水の回転速度を測るのに使う。今回はアルミホイルを、沈んでしまわないように空気がたまるような形にして使った。

手順は以下の通り。
  1. 水槽に水を張り、浮子を浮かべる。
  2. 回転台の上に置いて45回転/分で回転させる。
  3. 浮子が1周するのにかかる時間(回転周期)を測る(ちゃんと計れているかどうか確認するために複数回測る)
  4. 途中で回転数を33 1/3回転に切り替える。
  5. 浮子の回転周期を測り続ける。

そして得られた結果が下のグラフだ。ストップウォッチで正しく周期を測るのは難しいが、一応なんとかなりそうだ。なれればもっと正しく測れそうな気もする。

図1 : レコードプレーヤーの回転数設定を45回転/分から33 1/3回転/分に切り変えた時の水の回転周期の変化。青が回転周期の生の値、オレンジはその5区間移動平均、黄と緑の線は45回転/分、33 1/3回転/分にセットした時の実際の回転周期。

せっかくなので、スピンダウンタイム(水の回転が水槽の回転になじむまでの時間スケール)についてざっくり答え合わせをしてみよう。水槽の深さをH、回転の角速度をΩ、水の動粘性係数をνとすると、水槽に対する水の総体的な回転数が1/e (=1/2.71828...)になるのにかかる時間スケール(スピンダウンタイム)は以下の式で与えられる。

T=fδ_e/2H

ただしfはコリオリパラメータで、

f=2Ω

δ_eは水底のエクマン境界層の厚さで、

δ_e=√(2ν/f)

である。(式の導出等はは京都大学の久保川先生のテキスト参照のこと)

ここで、ν~1.0e-6 m^2 s^-1, Ω~8.4 rad s^-1, H~0.1 mとして計算するとT~48 sを得る。上のグラフでは横軸を測定番号にしているので分かりにくいけれども、だいたい30~40秒くらいで水の回転が水槽の回転になじんでいる。適当にやって適当に検算した割にはまぁいい線行っているのではないか。

とりあえず今回はこんなところ。時間をみてまたやってみよう。

2014年4月5日土曜日

水の温度を測る(氷水の温度を測る の続き)

予告通り?またしても水の温度を測る実験をやってみた。今回は、4℃の氷水とほぼ室温の水を用意して、温度計を氷水で冷やしておいたあと、室温の水に入れ、時々刻々の読みの変化を記録した。
Fig.1 氷水の温度
氷水の温度はこの通り(Fig.1)。うっかり冷やしすぎたのであとから少し水を足して調節した。

Fig.2 実験風景(再現)
室温の水を用意するために、丼(Fig.2)に水を張って数時間放置した。実験前に予備的に測ってみたところ室温よりは1℃ほど低かったようだが、実験に支障をきたすほどの急な温度変化はないだろう。で、結果は以下の通り(Fig.3)。

Fig.3 実験結果
最初の100秒のデータを使って、ΔT=C・exp(-αt)にフィッティングしてみたところ、α≒0.046を得た。これは前回の結果に近い。log(10)/α≒50だから、50秒待てば温度計の読みと水温の差は最初の1/10になるということだ。ただし、前回もそうだったが指数関数によるフィッティングでは最初の10秒の急激な変化をぜんぜん再現できないので、実際には20秒程度まてばOKなんじゃないだろうか。
というわけで、棒温度計の特性はだいたいわかってきたけど、単純な指数関数による近似では限界があるなあ。

2014年4月3日木曜日

氷水の温度を測る

温度を測るシリーズ、いったん終了と見せかけて実はしつこく続いていたのだった。

お湯を冷やす(2)の中で使った式に現れる定数のうち,温度計の応答速度を表す定数であるαは温度を一定とした水の温度を測ることで調べることができる。というわけで、氷水を入れたガラス瓶を用意してほぼ常温を示している温度計を突っ込み,10秒ごとにその温度を測ってみた。

ポットを使うことも考えたけど,温度を測るために口をあけていると結構温度が下がるので,ここでは氷水を使うことにした.潜熱による熱容量の大きさがバッファになると期待.あとやってみて気が付いたのだけど,水の比重は4℃で最低になるので,うまく水と氷の量を調節して,かつかきまぜたりしなければ,底に近い所の水は常に4℃付近になる(冬の湖と同じ).

ガラス瓶の質量は135g(前回使用したのと同じビンなんだけど計るたびに値が微妙に変わるのは秤の精度がそこまでないため),実験は3回行い,水+氷の量はrun1で155g, run2,3で145g(同じ水+氷を続けて使用).室温は約22℃だった.

というわけで結果がこちら(Fig.1).0秒では温度計はほぼ室温を示していたのは確認したのだが,正確な値を記録していなかったのでプロットはしていない.
Fig.1 氷水の温度を測った結果


run2だけ途中4℃からじわじわ温度が下がっているけれど,これは氷の量が多く,しかも途中温度計を動かしてしまい水が混ざってしまったためだろう.今は温度計の支持具が無いので手で持って測っている.これだと温度計の位置が安定しないし持ち替えるときなどに意図せずかきまぜてしまうので,次回は番線か何かで支持具を作ってみようと思う.

さて,ここで定数αを求める為,run1と3について,LibreOfficeの機能を使って実験結果を指数関数でフィッティングしてみた結果がこちら(Fig2, 3).グラフの横軸は経過時間(秒),縦軸は温度計の読みと水温(4℃)との差(℃)で,前回の仮定が正しければf(t)=A・exp(-αt)にフィットさせることができるはずである.
Fig.2 指数関数によるフィッティングの結果(全データ使用)

Fig.3 指数関数によるフィッティングの結果(開始後60秒までのデータのみ使用)

ちっとも合わない(-_-;とりあえずαの値は,全データを使用した時0.016 1/s,最初の1分のデータを使用した時0.04 1/s程度であったが,おおよその目安にはなるものの胸を張ってあってますとは言い難いなあ.ちなみにα=0.04とは,誤差が測り始めの1/10になるのに約1分かかるということを表している

ところで,実験のあとで気が付いたけど,温度計の方を加熱あるいは冷却しておいて,常温に戻る様子を観察するほうが実験としては簡単だったかもしれない.というか次回にでもやってみよう.(←まだ続くのか